こんにちは、ホウボウです。
この記事からは、日商簿記の出題区分で言う「その他の債権と債務」の分野について学んでいきましょう。「その他」とありますが、意外と重要な実務でもよく出てくる「債権」や「債務」が多く、問題でも混乱しがちな分野だと思いますので、ひとつひとつゆっくりと理解することが重要だと思います。
そこで今回はまず、「貸付金」と「借入金」について学んでいきましょう。
文字通り貸したり借りたりしたお金のことですが、会社はビジネスで必要な資金を必要な時期に調達しなければならないので、どの会社でも基本的には発生する勘定科目だと思います。
それでは、さっそく見ていきましょう。
各級での出題範囲(「その他の債権と債務」分野)
まず最初に、「その他の債権と債務」の分野において、各級で出題される範囲を確認しておきましょう。ボタンをタッチかクリックすると詳細が開きます。
貸付金・借入金、未収入金・未払金、前払金・前受金、立替金・預り金、仮払金・借受金、受取商品券、差入保証金*
*差入保証金については、3級では簡易な内容のみ出題される。
発行商品券
(参考:商工会議所「商工会議所簿記検定試験出題区分表(2019年4月現在)」)
「その他の債権と債務」の分野のほとんどが、3級以上から出題されます。
この分野で登場する勘定科目は、残高試算表や貸借対照表など、日々の取引をまとめた財務諸表にも出てくるので、3級でもちゃんと勉強しておかないとこういった書類を作成できないから出題されているのだと思います。
結構ボリューミーではありますが、ひとつひとつの違いを丁寧に頭に入れていくことが大切ですので、ゆっくりと学んでいきましょう。
今回登場する勘定科目
今回登場する「その他の債権と債務」分野で覚えるべき勘定科目は以下の通りです。
- 貸付金:取引先や関係会社(子会社や関連会社)、役員、従業員などに貸し付けたお金のこと。
- 借入金:取引先や関係会社(子会社や関連会社)、役員、従業員などから、又は銀行などの金融機関から借り入れたお金のこと。
- 役員貸付金:貸付金の中でも、特に役員に対して貸し付けたお金のこと。
- 従業員貸付金:貸付金の中でも、特に従業員に対して貸し付けたお金のこと。
- 当座借越:当座預金の残高を超えて引き出したお金のこと。
会社や個人の場合、金融機関からお金を借り入れることが多いと思いますので、「借入金」については上のように強調をしています。
「貸付金」とは?
まずは、企業が他者に貸し付けたお金である「貸付金」から学んでいきましょう。
【例】山陽株式会社は、現金100,000円を東海商店に貸し付けた。
(貸付金)100,000 |(現金)100,000
山陽株式会社から見た仕訳になります。
「貸付金」というのは、説明するまでもなく、誰かに貸し付けたお金のことです。
上の例では、山陽株式会社が現金10万円を取引先に貸し付けているようですね。
誰かにお金を貸したとき、当然ですがその分はいずれ相手から返してもらえるお金ということになります。今回貸している10万円に関しては、いずれ東海商店から返してもらう権利(債権)が山陽株式会社にはあるので、「貸付金」(10万円分)という資産が増えることになります。
仕訳では、現金(資産)が減るので貸方に置き、借方は貸付金という名の資産が増えています。
これが一番基本的な「貸付金」の考え方です。
いろいろな「貸付金」
会社は、必要に応じて、以下のような様々な相手にお金を貸すことがあります。
- 取引先
- 子会社や関連会社(関係会社)
- 役員
- 従業員
・・・・・etc.
先ほどの仕訳例は、取引先への貸付金にあたります。
よく簿記の解説書の中でも、「個人間でお金の借り貸しがあるように会社間でもお金の貸し借りが行われる」と説明され、突如「貸付金」が出てくることが多いようですが笑、他の会社にお金を貸すなんてこと実際にそんなたくさんあるの?と疑問に思いますよね。
銀行などの金融機関がお金を貸すなら納得できますが、一般の会社が他の会社にお金を貸すのは少しイメージしづらいものです。
しかし、上の表の二番目にあるように、子会社や関連会社相手であれば、企業間のお金の貸し借りはグッとイメージしやすくなると思います。実際にもそこで頻繁にお金の貸し借りが行われているはずです。
子会社や関連会社への貸付金
「子会社」や「関連会社」への貸付金でも、仕訳自体は同じような形になります。
【例】山陽株式会社は、普通預金100,000円を引き出し、子会社である瀬戸内株式会社へ貸し付けた。
(貸付金)100,000 |(普通預金)100,000
【別解】(実際の問題では、勘定科目一覧を見て判断しましょう)
(子会社貸付金)100,000 |(普通預金)100,000
他の会社の株式を50%よりも多く取得していればその会社は「子会社」となり、20%以上50%以下取得していれば「関連会社」となります。
ここでは、山陽株式会社の子会社が「瀬戸内株式会社」のようですね。
そしてこの例のように、親会社が子会社に資金を貸し付けるということがよく起こります。
少し考えてみると自然なことで、親会社は通常規模も大きく、資金も潤沢に持っている可能性が高いです。そこで子会社が必要になった資金を、親会社の余分な資金(余剰資金)から一時的に貸し付けることはありえそうな気がしてこないでしょうか。
銀行などの金融機関からお金を借りる場合は、審査も厳しくすぐに借り入れを行うことが難しくても、親会社から借りる場合は融通も利くので重宝されることが多いです。
こういった「貸付金」のケースを考えると、会社間でお金の貸し借りが発生することは決して珍しいものではないということがよく分かると思います。
仕訳での別解のように、子会社に貸し付ける場合には「子会社貸付金」という勘定科目を使う場合もありますが、単に「貸付金」としても全く問題はありません。そのあたりの細かい部分は実務上問題となることがほとんどですので、日商簿記などの試験では、問題文や勘定科目の一覧に合わせて解答するようにしましょう。
役員や従業員への貸付金
会社がお金を貸す相手は、取引先や子会社などの会社だけではありません。個人に貸すことも可能です。
まずは、具体的な仕訳例を見てみましょう。
【例】山陽株式会社は、普通預金100,000円を引き出し、当社の常務取締役であるY氏に貸し付けた。ただし、その重要性を考慮して貸付金勘定ではなく、役員貸付けであることを明示する勘定を用いることとする。
(役員貸付金)100,000 |(普通預金)100,000
会社側が役員にお金を貸すという極めて怪しい取引ですが笑、実際に貸し借りを行うことは可能であり、上のような仕訳をしていれば問題はありません。
ただし、単純に他の企業へお金を貸すこととはちゃんと区別する必要があり、問題文の中でも「役員貸し付けであることを明示する」ように指示が出されています。
そこで、借方には「貸付金」ではなく「役員貸付金」という勘定科目を用いて、役員に対する貸付金であることを分かりやすくしています。
役員だけではなく、従業員にもお金を貸すことも可能で、その場合には「従業員貸付金」という勘定科目を使うことになります。併せて覚えておきましょう。
「借入金」とは?
後半は、「借入金」について詳しく解説していきましょう。
「貸付金」の反対と考えれば簡単ですが、「借入金」は、他者から借り入れたお金のことです。会社などの場合は、銀行などの金融機関からお金を借りることが多いですね。実際に仕訳も見てみましょう。
【例】山陽株式会社は、本州銀行から100,000円を借り入れ、資金は即日当社の普通預金に振り込まれた。
(普通預金)100,000 |(借入金)100,000
お金(資産)が増えているので、借方には「普通預金」(資産)を置きます。
一方貸方ですが、銀行から借りたお金は後で返さない(債務の発生)といけないので、負債(債務)の勘定科目である「借入金」を置いて、負債100,000円が増加したことを仕訳で表します。
ちなみに、銀行からの借り入れであることを分かりやすくするために「銀行借入金」という勘定科目を用いることもあります。
そこまで難しくはないですね。以上が「借入金」の基本的な考え方です。
いろいろな「借入金」
「貸付金」ですでに解説している通り、会社は様々な相手と貸し借りを行う場合が考えられます。
それは「借入金」でも同じです。
どこから借り入れをするかによって、「子会社借入金」「役員借入金」「従業員借入金」など状況に応じた勘定科目を用いることがあります。
ほとんどは先ほどの「貸付金」のところで解説したものを逆の立場で考えるだけなのでここでは割愛します。
ここでは、銀行からの借り入れをもう少し深掘りして、「当座借越」(当座貸越)というものについて解説したいと思います。
「当座借越」とは?
まず、この「当座借越」という言葉を初めて聞いたという人も多いと思いますので、いったいどんなものなのかを見ていきましょう。
これだけ読んでもピンと来ないかもしれないので、順番に理解していきましょう。
まず、「当座預金」というのは個人では聞き慣れないかもしれませんが、銀行口座の預金種目のひとつで、他の「普通預金」や「定期預金」だったら皆さんも知っているはずです。そのうちのひとつです。
「当座預金」は、主に会社の決済手段として用いる口座で、金融機関への信用も必要となるため、基本的には個人で持つことはまずできません。
そんな会社が持つ「当座預金」ですが、その口座の残高を超える金額を引き出して決済に用いることができます。それが「当座借越」です。
口座の残高を超える金額を引き出すということは、超えた分を金融機関から「借りる」ようなものなので、「当座借越」と言います。金融機関側から見れば、相手に超過分を「貸す」ことになるので、「当座貸越」という名前で取引されることもありますが、取引に違いがあるわけではありません。
具体的な仕訳例を見てみましょう。
【例】山陽株式会社は、有限会社岡山へ買掛金30,000円を小切手を振り出して支払った。ただし、当座預金の残高は10,000円だったが、当社は本州銀行と上限100,000円の当座借越契約を結んでいる。
(買掛金)30,000
(当座預金)10,000
(当座借越)20,000
上の例では、買掛金(負債)の支払い30,000円に際して、当座預金の残高が10,000円しかありません。
20,000円残高が足りないので、通常であれば支払いができないところですが、「100,000円の当座借越契約を結んでいる」ということなので、その金額の範囲内であれば、残高が足りなくても支払いができることになります。
よって、借方は30,000円分の「買掛金」(負債)の減少で、貸方の方には、まず「当座預金」の残高10,000円を置き、残りの20,000円は「当座借越」(負債)という勘定科目を用いて処理します。
残高で足りない分は「当座借越」で補うというイメージですね。
慣れてくれば難しくはありません。
※ちなみに、「当座預金」と「当座借越」という2つの勘定科目を使って、当座預金口座の処理をする方法を「二勘定制」と言います。一方で、「当座」という1つの勘定科目のみで処理する方法は「一勘定制」と呼ばれています。
「当座借越」は「借入金」の一種
ここまで読んで理解してみるとなんとなく分かると思いますが、「当座借越」は金融機関から一時的にお金を借りている状態を作っていますよね。
つまり、この「当座借越」は「借入金」の一種であると言えます。
「借入金」は、銀行などの金融機関から融資を受けたときなどに使う勘定科目でした。
当座預金の残高不足時に自動的に借りることのできる特殊ケースとして、「当座借越」というものがあると理解しておきましょう。「借入金」も「当座借越」も、お金を借りているわけですから、利息が発生します。
この利息などについては、次回の記事で詳しく見ていくことにしましょう。
手形を用いた貸付金と借入金
ここまでの「貸付金」と「借入金」の取引では、借用証書(金銭の貸し借りがあったことを証明するもの)を受け渡してお金の貸し借りが行われているという前提でした。
ただし、取引によっては、借用証書の代わりとして約束手形と呼ばれる手形を用いたお金の貸し借りがあり、その場合は「手形貸付金」「手形借入金」という勘定科目を使います。
詳細は「手形」分野の範囲で解説しますので、それまでしばらくお待ちください。
まとめ
今回は、「貸付金」「借入金」について見ていきました。
会社は、その経営上で様々な相手とお金を貸し借りすることがあり、その際に「貸付金」や「借入金」といった勘定科目を使うのでした。
また、相手によって「役員貸付金」や「子会社貸付金」など、分かりやすく明示する場合もあることが理解できたと思います。
さて、次回の記事では、「貸付金」や「借入金」を返済する場合の仕訳や、その際に支払う利息について学んでいくことにしましょう。
また、「短期」や「長期」といった貸し借りする期間によって、「貸付金」と「借入金」を分類する方法も解説していきたいと思います。
それではお疲れさまでした!また次回も頑張っていきましょう。
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